教員の残業代がおかしい理由は給特法?|その仕組みと転職の道

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教育転職ドットコム 田中

教育転職ドットコム 田中

代表取締役

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教員の道を志すもまずはビジネス経験を積もうとコンサルティングファームに入社の後、リクルートに転職。人事採用領域と教育領域で12年間、法人営業および営業責任者として従事し、年間最優秀マネジャーとして表彰。退職後、海外教育ベンチャーの取締役などを経て株式会社コトブックを創業。大手学習塾や私立大学など教育系企業のコンサルティングなど教育領域に関する知見を活かし、教育領域の転職支援を行う傍ら、京都精華大学キャリア科目の非常勤講師も務める。

「また今日も日付が変わってしまった…」「サービス残業、もう限界だ…」

連日の長時間労働、持ち帰り仕事、そして一切支払われない残業代。教員であるあなたの心身は、この「おかしい」と感じる状況に、もう疲弊しきっていませんか?この「おかしい」と感じる状況の根源には、教員の働き方を特殊な形で規定するある法律が存在します。

この記事では、教員の残業代が出ないカラクリを徹底解説し、その上で「このままではいけない」とキャリアを見直し始めたあなたへ、教員経験を強みに新しいキャリアを築く具体的な道筋を提示します。

この情報が、あなたが問題の根源を理解し、次のステップに進むための具体的なヒントとなるはずです。

この記事の目次

こんなお悩みありませんか?

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教育業界専門の
キャリアアドバイザーが担当

結論:教員の残業代が出ないのは「給特法」が原因

教員の残業代がおかしいと感じる最大の原因は、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」、略して「給特法(きゅうとくほう)」にあります。

この法律が、教員の働き方を一般的な労働基準法の枠組みから切り離し、「残業代ゼロ」という特殊な状況を生み出しているのです。

教員の残業代が出ないのは「給特法」が原因

給特法とは?ポイントを解説

給特法は、公立学校の教員の「職務と勤務態様の特殊性」を考慮し、時間外勤務手当(残業代)や休日勤務手当を支払わない代わりに、「教職調整額」を支給することを定めた法律です。

特徴内容
残業代の扱い   原則として時間外勤務手当・休日勤務手当を支給しない。
代替措置給料月額の4%を「教職調整額」として支給する。
対象となる業務「自発的行為」とされる授業準備、教材研究、学校行事の準備など、多くの業務が含まれる。
例外「超勤4項目」と呼ばれる緊急やむを得ない業務(災害時など緊急時の対応、校外実習などの生徒の引率など)に限り、残業代を支給する。

給特法が適用されるのは「公立の義務教育諸学校等」の教員です(校長、教頭は除く)。この「給料の4%」が、どれだけ長時間働いても、残業代の代わりに支払われる固定額とされています。しかし、長時間労働が常態化している現状を鑑みると、この4%は実態とかけ離れた金額だと言わざるを得ないでしょう。

「自発的行為」と見なされる残業

給特法の下では、教員の多くの業務が「自発的行為」と見なされ、労働時間とカウントされにくいという特徴があります。

「自発的行為」とされる主な残業の例

業務区分具体的な残業の例
授業準備・教材研究翌日の授業プリント作り、板書計画、資料収集など
テスト作成・採点定期考査や小テストの作成、採点、成績処理
保護者対応電話対応、面談、学校説明会での個別相談など
部活動の指導練習の引率、試合への帯同など(※)
校務分掌広報誌作成、進路指導、安全管理など委員会的な仕事
行事の準備文化祭、運動会、修学旅行などの企画・準備

※部活動指導については、現在はガイドライン等で負担軽減の動きがありますが、依然として時間外の長時間労働の原因となっています。

これらの業務は、教員の「自律性」「専門性」に基づくものとして「自発的」と解釈されがちですが、実際には学校運営上、必須であり、教員が半強制的に行っているのが現実です。

制定当時と現代の大きなズレ

給特法のもととなった「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」が制定されたのは1971年。半世紀以上も前の法律です。

当時の教育現場と現代の現場には、大きなズレが生じています。

制定当時の背景   教職員の処遇向上を最大の目的としていた。授業準備などに充てる「持ち帰り仕事」の時間を考慮し、残業代計算が煩雑になるのを避ける目的があったとされる。
現代の教育現場・複雑化・多様化(いじめ、不登校、発達障害への対応、保護者のニーズ多様化など、業務が激増)
・IT化の波(GIGAスクール構想などでデジタル対応も必須に)
・「働き方改革」の遅れ(社会全体で残業削減が進む中、教員は置き去りにされた状況)

制定時の「教員に過度な残業をさせない」という趣旨は形骸化し、依然として給特法は長時間労働の免罪符として機能し続けているのが現状です。

給特法は本当に「聖域」なのか

教員の長時間労働が社会問題化して久しいにもかかわらず、給特法の抜本的な見直しは、いまだ実現していません。
「給特法は聖域だ」とさえ言われるように、行政も政治もこの問題に本格的に踏み込めない状況が続いてきました。

しかし近年、教員の過酷な労働実態を受け、給特法の在り方はようやく議論の俎上に載り始めたといえます。

文部科学省の検討     中央教育審議会などで給特法に関する議論が行われ、教員の処遇改善や勤務時間管理の在り方が検討されている。
2025年には改正法が成立し、2026年からは教職調整額を毎年1%ずつ引き上げ、2031年に10%へと段階的に引き上げる方針が示された。
訴訟の動き教員が国や自治体に対して残業代を求める訴訟が複数提起されており、司法の場でも問題が顕在化している。

しかし、法改正には多額の財源が必要となるため、スピード感のある抜本的な改革は期待しにくいのが現実です。国の制度が変わるのを待つ間に、もしあなたの心や体が限界を感じているのであれば、環境を変える=転職を検討することも一つの選択肢です。

客観データが示す教員の労働環境

あなたの教員の労働環境に対して「おかしい」と感じる気持ちは、決して間違いではないでしょう。国のデータでは、教員の労働環境が極めて過酷であることを裏付けています。

国の調査で見る平均残業時間

文部科学省の「教員勤務実態調査(2022年度)」速報値から、教員の長時間労働が浮き彫りになっています。

職種平日(1日あたり)の勤務時間外の労働時間(持ち帰り仕事を含む)
小学校教諭約3時間37分
中学校教諭約3時間48分
高校教諭約2時間50分
全教員平均約3時間25分

※参照:文部科学省「教員勤務実態調査」(2022年度)速報値。所定の勤務時間は7時間45分として算出。全教員平均は、小学校、中学校、高校の数値を単純平均したもの。

これは、勤務時間外に毎日3時間半前後ものサービス残業が発生していることを意味します。この数字は、一般企業では考えられない水準であり、教員の長時間労働が依然として深刻化していることを示しています。

過労死ライン超え教員の割合

労働基準法上の「過労死ライン」とは、月80時間以上の時間外労働を指します。
一般企業では、国のガイドラインにより、月45時間以内が原則となっており、月80時間の過労死ラインを超えないよう厳格に労働時間を管理されますが、教員にはそのような労働時間の上限管理が実質的に適用されていません。

月45時間以上残業をしている割合月80時間の過労死ラインを超えている割合
小学校教諭64.5%14.2%
中学校教諭77.1%36.6%

※参照:文部科学省「教員勤務実態調査」(2022年度)速報値

つまり、中学校教員の3人に1人以上が「過労死ライン」超えという衝撃的な結果です。
しかも、これには自宅での「持ち帰り仕事」は含まれていません。実際には、さらに多くの教員が心身をすり減らしながら働いていると考えられます。

精神疾患による休職者数の推移

長時間労働による心身の疲弊は、精神疾患による休職者数の増加として表れており、その水準は他職種と比較しても深刻です。

令和5年度の文部科学省の「公立学校教職員の人事行政状況調査」では精神疾患で休職している教員の数は7,119名となり、過去最多となっています。

年度精神疾患で休職している教員の数
令和5年度7,119名
令和4年度6,539名
令和3年度5,897名

このデータからも、公立学校教職員の精神疾患による休職者数は直近3年連続で過去最多を更新しており、毎年約7,000人近い教員が、ストレスや過労によって現場を離れざるを得ない状況に追い込まれていることがわかります。

データが示す労働環境の異常性

これらのデータが示すのは、「給特法」という制度的欠陥と「教師の献身性」に依存した学校運営が、教員の健康と人生を犠牲にしているという紛れもない事実です。

疲弊の構造制度の甘さ → 無制限の業務 → 長時間労働 → 心身の健康破壊
キャリアの閉塞感残業代が出ない → 労働に見合った対価がない → モチベーション低下 → キャリアの見直し

この異常な環境から抜け出すことは、決して「逃げ」ではなく、あなたの人生を守るための賢明な選択になります。

教員経験を武器に、新しいキャリアを築く方法

教員経験を武器に新しいキャリアを

過酷な労働環境から抜け出す策の一つが、転職です。教員として培った経験は、教育業界はもちろん、他業界でも強力な武器になります。

評価される教員のスキル一覧

教員からの転職は難しいと言われることが多いですが、実際には多くの教員は一般企業で非常に高く評価されるスキルを数多く身につけています。

評価されるスキル具体的な教員経験(企業のニーズ)
コミュニケーション能力保護者、生徒、同僚といった多様なステークホルダーとの折衝・傾聴力。
プレゼンテーション・指導力授業や説明会を通じて、複雑な内容を分かりやすく伝える力。
マネジメント能力クラス運営、部活動指導、行事運営における組織管理・リーダーシップ。
企画力・実行力授業や行事の計画立案・実行、問題発生時の迅速な対応力。
傾聴力・問題解決能力生徒の悩みや保護者の要望を深く理解し、解決へ導く力。

経験を活かせる転職先の選択肢

教員経験を活かせる転職先は多岐にわたりますが、特に教育への熱意や指導経験を強みにできる分野、および組織運営能力が活きる分野が人気です。

転職先の例活かせる教員のスキル
学習塾・予備校の講師指導力、カリキュラム作成、生徒・保護者対応(即戦力として最も有力)
企業への研修講師プレゼン力、指導力、企画力(社員教育の企画・実施)
EdTech企業の学校営業現場のニーズ理解、企画力、教員へのシステム導入支援
キャリアアドバイザーコミュニケーション力、進路指導で培った提案力

ワークライフバランスが改善した元教員の声

Aさんのプロフィール
・最終学歴:大卒
・転職時の年齢:26歳
・転職前のキャリア:公立中学校の教員
・転職後のキャリア:Edtech企業の学校営業

学校教員として、部活動の夜遅くまでの指導や持ち帰り仕事により、Aさんは連日の長時間労働を強いられていました。

「他の教員も頑張っているのに自分だけ辛いのは根性がないのではないか」——そう自分を責めながらも、試しに持ち帰り仕事も含めて労働時間を計算してみたところ、月80時間の“過労死ライン”を超えていることに気づきました。

「このままだと体力が持たない」と判断し、結婚や子育てを見据えて転職を決意しました。

転職活動では、次の3つの軸を大切にしました。

  • ワークライフバランスを改善し、ライフステージが変わっても働き続けられるか
  • 教員として培ったキャリアを活かせるか
  • 誰かの役に立てているという実感を持てる、やりがいのある仕事か

その結果、Aさんは教育系ITコンテンツを開発するEdtech企業の営業職に転職。学校現場で培った課題意識や、保護者対応で磨いたコミュニケーション力を高く評価され、新しいキャリアをスタートさせました。

勤務先では労働時間がきちんと管理され、「残業はできるだけ少なく」という文化が根づいています。現在は月の残業時間20時間程度におさまり、オンとオフを切り替えながら、仕事にやりがいを感じて働いています。

転職で年収がアップした事例

Bさんのプロフィール
・最終学歴:大卒
・転職時の年齢:29歳
・転職前のキャリア:公立小学校の教員
・転職後のキャリア:大手教育系出版社の教材企画職
・年収の変化:50万アップ

「この教え方なら、もっと生徒は伸びるはず」「もっと視覚的に分かりやすい教材を作りたい」と、日々の授業実践の中で生徒のためのアイデアが常に溢れていたBさん。しかし、多忙な教務の中で、その全てを教材開発や教育システムに反映させることに限界を感じていました。

さらに、教員としてのキャリアは年功序列の昇給制度に縛られ、「自分の能力と実績が正当に評価されていない」という金銭的な閉塞感も抱えていました。

そこでBさんは、自身の長年の指導経験から得た教材の課題点、生徒のリアルな反応、そして校務分掌で培った企画・調整能力を強みとして徹底的にアピール。その深い現場の知見と教育専門性を評価されました。

その結果、大手教育系出版社で教材企画職として内定を獲得。教育現場で培ってきた経験から即戦力として評価され、年収もアップさせることに成功しました。

現在は、自身のアイデアが全国の生徒の学びを豊かにする最前線で活躍しながら、やりがいと安定した収入の両立を実現しています。

転職を考え始めたらやるべき3つのこと

適切な準備と戦略があれば、あなたの持つ素晴らしい能力を活かし、新しいキャリアを築くことは十分に可能です。ここでは、教員が転職を成功させるための具体的な3つのポイントをご紹介します。

教員という特殊なキャリアからスムーズに移行するために、次の3ステップを段階的に進めましょう。

  • キャリアの棚卸し
  • 情報収集と企業研究
  • 転職エージェントに相談

STEP1:転職を成功させるための具体的なキャリアの棚卸し

まずは、あなたの「価値」を可視化することから始めます。

棚卸しのポイント具体的な内容
実績の数値化        担当クラスの成績向上率、部活動の実績、学校行事での予算削減額など、可能な限り具体的な数字で書き出す。
ポータブルスキルの特定生徒指導、保護者対応、会議でのファシリテーションなど、「何を」「どのように」解決・実行したかを洗い出し、一般企業で通用するスキルに変換する。
モチベーションの源泉「なぜ教員になったのか」「仕事で最もやりがいを感じるのはどんな時か」を明確にし、次の仕事に求める「軸」を定める。

STEP2:情報収集と企業研究

教員の世界の外には、あなたが想像する以上に多様な働き方と仕事があります。

情報収集のポイント具体的な内容
業界・職種の理解    教育業界(塾、Edtechなど)だけでなく、人材、IT、コンサルなど、興味のある業界のビジネスモデルや職種(営業、企画、人事など)を調べる。
企業の文化理解企業のホームページ、採用ブログ、口コミサイトなどで、残業時間や社風、ワークライフバランスに関する情報を集める。
OB/OG訪問可能であれば、異業種に転職した先輩や知人に話を聞き、リアルな労働環境や仕事内容を知る。

STEP3:転職エージェントに相談

転職活動をスムーズに進める上では、業界特化型のエージェントを活用することは非常に有効です。

非公開求人の紹介一般には公開されていない、優良な非公開求人を紹介してもらえる可能性があります。
各社の特徴などの情報提供     どのような特色がある企業か、どのような人材が求められているかなど、求人情報からではわからない情報を教えてもらうことができます。
応募書類の添削・面接対策履歴書や職務経歴書の添削、模擬面接などを通じて、あなたの魅力を最大限に引き出すサポートをしてくれます。
企業との橋渡しあなたの強みを企業に伝え、企業との間に入って年収交渉や入社時期の調整などを行ってくれます。
第三者視点でのアドバイス客観的な視点から、あなたのキャリアプランや転職活動の進め方について具体的なアドバイスを提供してくれます。

転職活動を成功させるための最重要ステップが、転職エージェントへの相談です。特に教育業界や教員からの転職支援に特化したエージェントを選びましょう。

まとめ:国の制度より、自分の人生を優先しよう

教員の残業代が出ない根本原因は給特法にあります。この問題の解決を国の制度改革に委ねるには、あまりにも時間がかかりすぎます。もしあなたが、今の働き方の中で心や身体に不調を感じているのであれば、転職を検討してみることも、立派な選択肢のひとつです。

あなたが教員として培ってきた「指導力」「企画力」「コミュニケーション能力」は、教育業界はもちろん、教育業界以外の企業でも本当に評価され、対価を得るに値する、素晴らしいスキルです。

少しでも悩んだ際には、教育業界特化の転職エージェント「教育転職ドットコム」にご相談ください。

この記事の監修者

教育転職ドットコム 田中

教育転職ドットコム 田中

代表取締役

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教員の道を志すもまずはビジネス経験を積もうとコンサルティングファームに入社の後、リクルートに転職。人事採用領域と教育領域で12年間、法人営業および営業責任者として従事し、年間最優秀マネジャーとして表彰。退職後、海外教育ベンチャーの取締役などを経て株式会社コトブックを創業。大手学習塾や私立大学など教育系企業のコンサルティングなど教育領域に関する知見を活かし、教育領域の転職支援を行う傍ら、京都精華大学キャリア科目の非常勤講師も務める。

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