塾講師の正社員に向いている人とは? 仕事内容、悩み、やりがいを徹底解説

授業だけじゃない!正社員塾講師の具体的な仕事内容
「塾講師=授業をする人」というイメージを持っている方は多いのではないでしょうか。
しかし実際には、塾講師の仕事は授業以外にも多岐にわたります。ここでは意外に知られていない塾講師の授業以外の業務について紹介していきます。
生徒のマネジメントと進路指導
生徒にとって受験は初めてのことが多く、勉強のやり方、進路の選び方は全くわからないという子がほとんどです。
また、受験に不安を抱える生徒も多いため、塾講師は勉強方法を教えるだけでなく、精神面のサポートや進路相談など、幅広い役割が求められます。日々多くの生徒と接しているからこそ、一人ひとりに合ったアドバイスができるのも強みです。
では、実際にどのようなサポートを行っているのでしょうか。
マネジメントの例としては下記となります。
勉強方法のマネジメント ①目標作成の補助 ②計画へのアドバイス ③フィードバック モチベーションマネジメント ①成果の見える化 ②先輩のモデルの紹介 |
生徒自身では気づかない生徒の特性を講師が分析したうえで、その子にあった進路を一緒に考える能力が求められます。
保護者面談などの対応
塾講師のアルバイトとは異なる業務として代表的なものが、保護者への対応です。生徒をサポートするうえでも保護者との連携は不可欠です。特に保護者面談は家庭と塾の方針をすり合わせるための大切な機会となっています。
保護者面談で主に話されることとしては下記のとおりです。
- 生徒の学習状況(授業態度・家庭学習含む)
- 成績の推移と分析
- 学習意欲、モチベーションについて
- 苦手分野や課題の共有と改善策
- 志望校や進路の相談
- 家庭でのサポート方法、ヒアリング
- 講習などの案内
保護者が塾に払っている費用に対して納得感を得られるよう、生徒の状況などを事細かに伝えていくことも必要です。
塾に寄せられるクレームの多くは「①成績があがらない」、「②塾のやり方に不満がある」といったものです。そのため面談では保護者の意見を丁寧に聞き取りながら、今後の対応方針をすり合わせていくことがクレーム防止につながります。
教室運営業務
これまで紹介した業務は直接生徒や保護者と関わるものでしたが、塾の規模によっては事務的な業務もしていく必要があります。
- 教室の備品管理
- 出席状況の確認
- 教室の清掃
- 電話対応
これらの業務は、大規模な塾では事務スタッフや専任のスタッフが担当することが多い一方で、中小規模の塾では講師が兼任することもあります。
また、生徒募集に関わる業務の一部(入塾希望者への面談や体験授業)は、現場の講師が対応するケースも少なくありません。営業的な勧誘活動ではなく、授業内容や学習環境についてリアルな情報を伝える役割を担います。
アルバイト講師の管理・育成
正社員となることで求められる役割のひとつがアルバイト講師の管理・育成です。
塾講師においてはアルバイト講師が全体の5割弱を占め、アルバイトとパートを合わせると塾講師の6割にも上り、正社員の約2倍ほどにあたります。特に学生アルバイトは入れ替わりが激しいため、安定した授業品質を保つには管理や育成は欠かせません。
(参考:厚生労働省 https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/396)
<学習塾講師の就業形態>
アルバイトの塾講師は他の業務を行う正社員と異なり生徒対応に専念するケースが多く、生徒との距離が比較的近い講師が多いのが特徴です。
しかし一方で、受験を支えるという重要な役割を担っている以上一定の責任感をもち、相応の指導スキルを備えていてもらう必要があります。そのため、正社員には塾の看板としてふさわしい講師を育てていく役割も求められてくるのです。
1日のスケジュール例
ここまで業務内容を紹介してきましたが、実際に「どんな1日を過ごすのかイメージしにくい」という方も多いかもしれません。
そこで今回は具体的に正社員塾講師Aさんの1日を見ていきましょう。
9:00〜12:00 起床・朝食・家事・読書など自由時間 13:00〜14:00 昼食・移動 14:00〜15:00 出勤 15:00〜21:30 授業・休憩(15分〜30分)をはさみながら3〜4コマ対応 22:00〜23:00 片付け・報告書入力・翌日の準備 23:30〜24:30 帰宅・夕食・就寝準備 25:00前後 就寝 |
塾の形態にもよりますが、塾での授業は夕方から21:00くらいまで行われることが多く、退勤時間も22:00前後が一般的です。夜遅めの帰宅になりますがその分出勤時間が遅いため、授業準備や生徒の学習指導の時間を考慮してもプライベートな時間は確保できます。(朝は比較的ゆっくり過ごせるが、夜は遅いためライフスタイルとの相性がポイントになります)
塾講師の年収やキャリアの積み方
職業を選択するうえで、年収や将来性は大切な判断材料の一つでしょう。ここでは、塾講師の平均年収やキャリアパスについて解説します。
塾講師の平均年収は438.4万円
これは国税庁が出している年収の中央値である、400万円〜500万円の範囲内です。
(参考:令和5年分 民間給与実態統計調査、国税庁 https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/396)
また、平均年収は438.4万円ですがキャリアアップを重ねることで高年収につなげることができます。塾講師の基本のキャリアアップの流れは下記のようになります。

途中で本部へ異動し、経営に携わるケースもありますし、塾講師の経験を生かして独立する道もあります。一方で、例え異動せずとも継続して務めることで給与は上がっていきます。
しかし、これらの役職には限りがあるため昇進の機会が限られる可能性があります。特に塾の規模によってはそれ以上の昇進が難しい場合があります。さらなる昇進を目指す方は他塾への転職も視野に入れることが大切です。
塾講師に向いてる人の特徴|どこよりも詳しく、塾の種類別に紹介
塾の形態によって働き方も必要な能力も異なり、向いている人も違ってきます。そのため、ここでは集団塾、個人塾、オンライン塾の3つに分けてそれぞれに向いている人の特徴を解説していきます。

集団塾に向いている人の特徴
集団塾では基本的に10〜30人ほどのクラスを受け持って、カリキュラムにそって勉強を進めていきます。カリキュラムはあっても授業方法や細かい部分は講師自ら決めていくことも多く、クラス内の理解度や進度の差を踏まえて授業を作成していく必要があります。
集団塾に向いている人の特徴は下記です。
- 授業設計力がある人
- 統率力・管理能力がある人
- 広範囲に目を配ることができる人
- 臨機応変な対応ができる人
- 責任感がある人
- 高収入を求めている人
ただし、上記のスキルは塾講師をしていく中で徐々に身に着けていくものです。集団塾は個別対応への難しさ、生徒間のレベル差調整、トラブル対応の大変さなどがありますが、多くの生徒を相手に指導する分やりがいも大きい仕事です。
個人塾に向いている人の特徴
個人塾では一人または数人を対象に授業を行います。塾ごとのテキストがある場合がありますが、生徒が持参する教材にそって教えることもあります。
個人塾に向いている人の特徴としては下記です。
- 生徒に寄り添える人
- 生徒との関わりを第一におきたい人
- 生徒のニーズに応えられる人→柔軟な指導ができる人
- 信頼関係の構築ができる人(生徒、保護者)
人数が少なく、集団塾に比べて授業料が高いため生徒や保護者からの期待が高くなりがちで、生徒のニーズにしっかり応えていく必要があります。そのため、集団塾に比べて保護者や生徒との信頼関係をしっかりと築くことが重要です。授業の腕前と同じくらいコミュニケーション能力が問われますが、その分生徒とはしっかりとした関係性を築きやすい環境でもあります。
オンライン塾に向いている人の特徴
オンライン塾は個別指導型や集団授業型、動画配信型、学習管理型に分かれていますが、講師募集は基本的に個別指導型か集団授業型です。
オンライン塾に向いている人の特徴は下記です。
- コミュニケーションを取りつつ授業できる人
- 柔軟に対応できる人
- ITに苦手意識がない人
- 自由に効率的に働きたい人
- 副業として稼ぎたい人
画面越しであるため、コミュニケーションの取りづらさやネットのトラブルは考えられます。しかし、働く場所や時間の自由度が高いのが魅力であり在宅で働ける場合も多いです。一般的に他の塾講師の形態に比べて年収が低い場合が多いため、副業としてオンライン塾講師を選ぶ人もいます。
大学中退でも塾講師の正社員になれる?
「塾講師になりたいけれど、経歴に不安がある…」という方もいるのではないでしょうか。多くの塾では大学卒を募集要項としていますが、大学中退でも塾講師の正社員になることは十分可能です。
塾講師に必要な資格は特にはありません。コミュニケーション能力や知識、指導力などが大切になってきます。
大卒以上を募集要項としている塾もありますが、塾によっては大学中退者も対象であり、特に塾でのアルバイト経験などがあると就職できる可能性はより上がります。
また、大学中退の理由をしっかり説明することで納得をしてくれる場合もあります。
現在塾講師の有効求人倍率は1.58倍です
(※有効求人倍率:求職者1人あたりに対する求人数の割合。令和6年度)
(参考:https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/396)
そのため人手が足りない状態であり、大学中退であったとしても就職や転職の機会は十分にあります。
正社員塾講師として働くメリット
ここまで塾講師の仕事内容や塾の形態ごとに向いている人の特徴を解説してきました。では正社員講師として働く良さはどこにあるのでしょうか?
生徒の成長を間近で実感できる「やりがい」
塾講師は勉強面において、保護者や学校の先生以上に深く関わることが多いです。
前述のとおり、塾講師は授業をするだけではなく、生徒の学習を全面的にサポートしていくため、数年単位でその生徒の成長を見ていくこともあります。そのため、模試の成績が上がったり、志望校合格の知らせを聞いたときの喜びはひとしおです。
しかし、実は成長を感じられるのは生徒の学力面ばかりではありません。
以前は消極的で、質問をしてもなかなか返答がなかった子が、自ら質問しに来てくれたり、笑顔で話しかけてくれるようになったりする。――そうした“心を開いてくれる変化”は、近くで成長を見守ってきた塾講師だからこそ気づけるものです。
「教える」以外のスキルが身に付く
授業をするだけでも塾講師には教えるということ以外に様々なスキルが身に付きます。目標から逆算していく計画力、生徒をまとめあげる統率力、コミュニケーション能力など、他の職種や生活のなかでも役立っていく多くのスキルが身に付きます。
生徒一人ひとりの個性に応じた対応も求められるため、決して楽な仕事ではありません。しかし、その分やりがいがあり、自分自身も生徒とともに成長していくことができる仕事です。
現役塾講師にインタビュー:実際働いてみて良かったこと
ここまで正社員として働く魅力をご紹介してきましたが、「このくらいの話なら知っている」という方も少なくないかもしれません。そこで今回は、実際に現場で働く塾講師Aさんの声を聴いてみましょう。
今までずっと友達としゃべるばかりで授業を聞いているのかもわからない子がいたんです。けれどある日、数学の問題が解けなくて悔しかったんでしょうね。授業終わりに話しかけてくれました。
その後は度々質問してくれるようになったんです。「塾の価値を感じてくれたのかな?」と嬉しく思いました。
そして極めつけはバレンタインデー。
なんと、机の上にチョコレートの山!
義理か本命かはさておき(笑)
生徒たちからの「ありがとう」が形になったようで、心の中で「この仕事、やっててよかった…」としみじみ思いました。
他の職種に比べて、塾講師は指導によって実際に現れる成果が目に見えてわかりやすいです。そして、塾講師は「○○先生ありがとうございます」「○○先生のおかげで合格できました」など心からの感謝を直接伝えてもらうことができる数少ない職業です。
正社員塾講師として働く辛さ
メリットが多い一方で、塾講師として働く辛さを耳にした人も多いはず。ここでは特に塾講師が辛いと感じることをピックアップして紹介します。

労働時間の長さと不規則な勤務体系
塾は基本的に学校の時間割に合わせて動きます。そのため勤務時間は夜が中心であり、土日の授業や、長期休みの講習に参加するために休日は一般の人とずれてしまうことが多いです。
そのためブラックな印象を持つ方もいらっしゃいますが、労働時間は14:00〜22:00の8時間で授業準備時間を含めてもほかの職業と大きく変わるわけではありません。最もつらいのは世間の生活リズムとの時間軸がずれてしまうということだそうです。
しかし、就業時間は塾ごとに異なります。さらには、土日であっても塾を開けない塾や、比較的授業時間が早めに設定されている塾も存在します。そのため、自分のライフスタイルに合った勤務時間の塾を選ぶことが重要です。
生徒を合格させるというプレッシャー
塾に通う生徒の多くは「成績を上げたい」「志望校に合格したい」といった明確な目的をもって塾に来ています。特に保護者は塾に行けば受験に合格することができると期待している方も多く、生徒を合格させてほしいという圧力がかかります。
そして塾の中でも、生徒を支えて合格させようという雰囲気が強く、塾によっては校舎単位で合格者数を競うということもあります。
責任感が強い人ほど、「自身のせいで合格ができなかった」などと自責の念にかられてしまうことがあり、塾講師のストレスの一因となることもあります。
トラブルが多発する「保護者対応」
生徒が塾に通っているのは高校生であっても保護者の意向が起因していることが多いです。保護者はなんとか成績を上げてほしい、合格させてほしいという望みをかけて高い授業料を払っているため、保護者の期待に応えられず生徒成績が思うように上がらない場合や塾の教え方が保護者の方針と違っていた場合などは不満の声が上がる可能性があります。
なかには成績を維持し続けるだけでなく、上げ続けることを望んでいる保護者もおり塾の方針とギャップが生まれることもあります。
さらに、保護者の塾講師に対する心象というものは面談などの直接なやり取りだけでなく、生徒が家で話す内容にも影響されます。そのため、保護者と信頼関係を築けていたと思っていても、保護者に異なる心象を抱かれている場合トラブルにつながることもあります。
塾講師以外の教育業にはどんなものがある?
ここまで、塾講師の正社員という職業について紹介してきましたが、中には塾講師の正社員には向いていないと感じられたかたもいるかもしれません。しかし、塾講師を目指したいという思いは教育に携わる他の多くの職業でも活きてきます。
スクール講師:教えたいという思いを活かせる
スクール講師とは資格取得系や、語学系、習い事などの専門的な分野の知識やスキルを教える講師のことです。
具体的には英会話スクールの講師やピアノの先生などが想像してもらいやすいと思います。
スクール講師は、教室によっては資格が不要な場合も多く、専門性の高い知識や経験を持っていれば大丈夫なこともあります。また塾とは異なり昼に働く人が多い職業です。
学童保育士・保育士:子供好きを活かせる
学童保育士は小学校を対象にして、学校がない時間にこどもを預かる職業であり、保育士は未就学児を対象とした保育の職業です。どちらも、こどもと一緒に遊び、成長を見守ることができる職業です。
職種 | 概要 |
---|---|
学童保育士 | 保育士や教員の資格、放課後児童支援員という専門の資格を持っている場合就職に有利。必須な資格はない。 (年収:396万円 有効求人倍率:2.6 ※令和6年度) |
保育士 | 保育士資格が必須。 (年収:406万円 有効求人倍率:3.16 ※令和6年度) |
どちらも塾講師と比較すると若干給料は下がりますが、日中の勤務が中心のため、生活リズムを整えたい方に適していると言えるでしょう。
(参考:https://shigoto.mhlw.go.jp/User)
塾運営:塾に関わりたいという思いを活かせる
塾には塾講師以外にも塾の運営を支える事務職・運営スタッフが存在します。大きめの塾ではそういった事務作業を専門で行う職業があります。
具体的な業務としては
- 生徒、保護者対応
- 入塾パンフレットの説明
- 入塾手続き
- 実力テストや塾内行事の対応
- 授業料の管理
- 成績データの管理
- 塾内の掲示物作成
といったものがあげられ、特別な資格は必要なく塾講師と比べて自分のペースで働きやすい職業です。
教材制作・デジタル教科書開発:教育に関わりたいという思いを活かせる
2024年度から、塾だけでなく全国全ての小中学校等を対象に学習者用デジタル教科書が段階的に導入されています。
そのため、教材制作の現場ではデジタル教科書の開発が急速に進んでいる一方で、紙媒体の教材も引き続き制作されています。いずれの形式においても、教育内容への深い理解や高い文章力が求められる業務であることに変わりはありません。こどもと直接関わることは難しくなりますが、教育そのものに関わりたいという思いは活かすことができます。
編集作業が主であるので、こちらも塾講師とは異なり昼の業務が多くなっています。
(参考:令和6年度「学習者用デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究事業」成果報告書(デジタル教科書の効果・影響の把握に資する大規模アンケート調査等) (PDF:3.8MB) )
まとめ
今回の記事では塾講師の正社員として働くことの実態や魅力について解説してきました。塾講師は厳しく、大変な所もある反面、やりがいがある仕事です。
一方で、塾講師として働くことは「自分にはあわないかもしれない」と感じられた方もいらっしゃると思います。
そんな方でも教育業界には他にも様々な職業があるので、自身に合った関わり方は必ずあります。是非自分らしい働き方を探してみてください。