塾の正社員がきついのはなぜ?教室長の価値と高待遇転職のための戦略

この記事の監修者
教育転職ドットコム 吉田
キャリアアドバイザー
詳しく見る新卒で会計コンサルティングファームに入社し内部統制構築支援や決算早期化支援プロジェクト等に携わった後、リクルートへ転職。教育領域で大学を中心とした高等教育機関の募集戦略の策定やマーケティング支援に携わる。その後学習塾を立ち上げ、創業2か月で単月黒字を達成。学習塾運営のみならず、高校大学受験のための進路指導講演会、高校入試問題の作成等、「教育」分野へ広範にわたって関わり、2022年株式会社コトブックへ参画。
そのスキル、異業種が高く評価します
「自分には勉強を教えることしかできない」。そう思い込み、将来の選択肢を狭めていませんか?
実は、講師のマネジメントや保護者との折衝、売上管理といった日々の教室運営は、ビジネス市場において極めて需要の高いスキルです。
異業種が高く評価する、あなたの「隠れた市場価値」と、それを武器にする方法を解説します。
なぜ塾の正社員は「きつい」のか?構造的な3つの理由
「生徒の成長は嬉しいけれど、体が持たない」。多くの塾講師が抱える悩みです。
なぜ、これほどまでに業務が過酷になるのでしょうか。それは個人の要領の良し悪しではなく、業界特有の構造に原因があります。
終わらない長時間労働と事務作業
「営業・事務」と「現場(授業)」の二足のわらじを履かざるを得ないタイムスケジュールは、長時間労働の一因になります。
多くの塾講師は、午後に出社してから夜遅くまで、息つく暇もなく動き続けています。
【ある塾講師の1日】
| 時間帯 | 区分 | 業務内容 |
|---|---|---|
| 13:00 〜 | 昼 | 出社。会議、ポスティング、教材作成、保護者への電話がけ。 |
| 17:00 〜 | 夕方 | 授業、自習室対応。 |
| 19:00 〜 | 夜 | 授業、アルバイト講師への指示出し。 |
| 22:00 〜 | 深夜 | 生徒見送り、授業報告書のチェック、翌日の準備。 |
| 23:30 〜 | 帰宅 | 日付が変わってから帰宅。 |
このように、「マネジメント業務」と「現場業務」が集中しているため、物理的に時間が足りなくなってしまいます。
売上・合格ノルマと保護者対応の板挟み
「教育者としての理想」と「企業としての営利」の狭間で苦しむケースも少なくありません。
特に夏期講習や冬期講習の時期になると、生徒に必要なカリキュラムよりも「売上目標(コマ数)」を優先せざるを得ないプレッシャーがかかります。
また、保護者からの理不尽な要求への対応や、生徒間のトラブル処理など、精神的負荷がかかるケースもあります。
講師の採用・マネジメントの疲弊
教室運営の鍵を握るのは大学生アルバイト講師ですが、彼らのマネジメントは一筋縄ではいきません。
- テスト期間やサークル活動による長期的な欠勤、または周期的でない働き方
- 当日のドタキャンへの対応(自ら代講に入ることも)
- 卒業による入れ替わりと、終わりのない採用・研修業務
これらを授業の合間に行うため、管理職としての業務負荷が非常に高くなります。
休めない勤務体系と見合わぬ給与
塾講師の仕事は、世間一般の休日である土日祝日が「かき入れ時」となるため、休みを平日に取るなど、一般的な生活リズムとは異なる働き方になります。このため、友人などと予定を合わせるのが難しく、孤独感や疎外感を覚える要因となる場合があります。
また、収入面では、厚生労働省のjobtagによると、「学習塾講師」の平均年収は 約438.4万円 であり、日本の平均年収478万円を下回っています。業務の負担が大きいにもかかわらず、給与が低いことは、いくらやる気を持って取り組んでいても、精神的な負担につながる可能性があります。
その「きつい」、あなたのせいではない客観的理由
「自分がもっと頑張れば…」と自分を責めるのはやめましょう。データを見れば、これが業界全体の課題であることが明らかです。

厚労省データで見る業界の労働実態
教育・学習支援業界における有給休暇の取得率は、他の業種と比較しても特に低い水準にあります。
厚生労働省のデータ(令和5年)によれば、「教育、学習支援業」の労働者1人平均有給取得率は 56.9% にとどまっており、これは宿泊業、飲食サービス業、複合サービス事業といった労働集約型産業と同等、またはそれ以下の水準です。
なぜ、教育業界では有給取得が進まないのでしょうか。これは単なる制度の問題ではなく、「取得を困難にする構造」が業界に深く根付いているためです。
有給休暇が取得しにくい構造
- 代替の難しさ(授業の特殊性)
講師一人ひとりが特定の生徒を担当しているため、代講を依頼する物理的・心理的ハードルが極めて高いです。特に受験など重要な時期の休講は、生徒・保護者への責任感から、講師自身が休みを強く躊躇する要因となります。 - 繁忙期と長期休暇の重複(強い同調圧力)
塾の繁忙期(季節講習、受験期など)は、一般企業の長期休暇(お盆、年末年始)と重なります。この時期は「休むべきではない」という業界内の強い同調圧力が働き、休暇の申請自体を諦めてしまう傾向があります。 - 持ち越し業務の増加(休むことが仕事を増やす行為に)
授業準備や事務作業が多いため、休むとその間の業務が休んだ後、すべて自分自身にのしかかってきます。結果的に、有給休暇を取ることが「後々の仕事を増やす」行為になってしまうため、計画的な休暇取得が困難な状況に陥ります。
有給休暇は労働者の正当な権利であるにもかかわらず、教育業界ではこの権利を主張しにくい職場環境が、低い取得率として明確に表れています。
労働集約型のビジネスモデル
塾経営は「労働集約型」のビジネスです。IT業界のように「一度作ったシステムが自動で運用され、勝手に稼いでいく」ことはなく、売上を上げるには「人の時間」を切り売りしなければなりません。
生徒一人当たりの単価には限界があるため、売上を伸ばそうとすればするほど、現場社員の労働時間を増やすしかない構造になっています。
少子化と加熱する競争のプレッシャー
少子化による18歳人口の減少、オンラインサービスや学習方法の変化により、学習塾業界は大きな転換期を迎えています。
この変化は、塾に時代に合わせた変革を要求し、講師に求められる能力も変化させる一方、業界内での競争を激化させています。
競争激化の背景:
- 市場の縮小: 少子化に伴う生徒の奪い合い
- 競合の増加: 個別指導塾の増加、安価なオンライン学習サービスの台頭
これらの要因が複合的に作用し、現場の塾講師には「集客ノルマの達成」や「退会防止」といった、厳しいプレッシャーとなってのしかかっています。
参考記事:学習塾業界に将来性はない?オワコンと言われる理由と生き残る道
経験を活かす高待遇キャリアパス3選
では、塾での経験は活かせないのでしょうか? いいえ、そんなことはありません。
あなたの経験を「強み」として評価してくれる業界へスライドすることで、年収アップとワークライフバランスの両立が図ることができます。
以下では3つのキャリアパスを提案します。
① EdTech(教育×ITサービス開発)
▶︎ どんな仕事?
EdTech(エドテック)とは、Education(教育)とTechnology(技術)を組み合わせた言葉。教育系のアプリやオンライン学習サービスなどを企画・開発・運営する業界です。
▶︎ なぜ塾講師に向いている?
塾講師として培ってきた教育現場のノウハウが活かせます。
| 塾講師の経験で培ったスキル | EdTech業界(企画・開発)の仕事での具体的な応用力 |
|---|---|
| 現場のニーズ理解 | 「生徒はこういう機能があれば喜ぶ」「先生はこんなシステムがあれば業務が楽になる」という現場感覚は、ユーザーの課題を解決するサービス開発において貴重。 |
| 教材知識 | どのような教材が学習効果を高めるかを知っているため、どんな動画教材やコンテンツを作るかといった企画・開発の即戦力として活かせます。 |
② 人材紹介(キャリアアドバイザー)
▶︎ どんな仕事?
転職を希望する「求職者」と、人材を募集する「企業」をマッチングさせる仕事です。求職者のキャリア相談に乗り、面接対策を行い、最適な企業を紹介します。
▶︎ なぜ塾講師に向いている?
キャリアアドバイザーは「社会人の進路指導の先生」とも言えます。「人の人生の転機に立ち会い、サポートしたい」という思いが強い方には最適の職種です。
| 塾講師の経験で培ったスキル | 人材紹介(キャリアアドバイザー)の仕事での応用力 |
|---|---|
| 傾聴力 | 生徒や保護者の悩み・本音を引き出してきた経験は、求職者の希望や不安を深く理解するヒアリング力として活かせます。 |
| 伴走力 | 受験というゴールまで生徒と二人三脚で歩んだ経験は、求職者の転職活動を成功まで粘り強くサポートする力として活かせます。 |
| 提案力 | その人の適性や希望に合った「キャリアプラン」を提案する力は、求職者に最適な求人やキャリアパスを提示する力として活かせます。 |
③ カスタマーサクセス・サポート(IT・SaaS)
▶︎ どんな仕事?
自社の商品やサービスを利用する顧客に対して、質問対応・トラブル解決・活用支援を行う仕事です。カスタマーサポートは“問題解決”が中心で、カスタマーサクセスは“顧客がサービスを使って成功すること”を目的としています。顧客満足度を高め、長期的な関係を築くことが重要な役割です。
▶︎ なぜ塾講師に向いている?
塾講師は、生徒一人ひとりの課題を理解し、成果につなげるサポートを日々行っています。その経験は、顧客の課題を丁寧にヒアリングし、最適な解決策を提案・サポートするこの仕事に大いに活かせます。
| 塾講師の経験で培ったスキル | カスタマーサポート・カスタマーサクセスの仕事での具体的な応用力 |
|---|---|
| コミュニケーション力 | 生徒や保護者とのやり取りで培った「相手に寄り添う聞き方」「わかりやすい説明力」は、顧客対応の基礎力としてそのまま活かせます。 |
| 継続的な関係構築力 | 生徒や保護者と長期スパンで信頼関係を築きながら成果を出す経験は、顧客満足度を高め、長期的な利用につなげる力として発揮できます。 |
さらにみたいという方はこちらの記事を参考にしてください

「辞めて後悔しない」ための方法
感情任せに退職届を出す前に、冷静な準備が必要です。後悔しない転職活動のために、以下のポイントを押さえましょう。
- ホワイトな塾も存在し、探し方がある
- 異業種を選ぶなら、成長産業がおすすめ
- 総合型エージェントと特化型エージェントを使う
「ホワイトな塾」の特徴と探し方
「教育の仕事は好きだが、今の環境がつらい」という場合は、環境を変えるだけで解決することもあります。
塾によっては日曜日、月曜日の完全週休二日制の塾や、残業0をうたう塾も存在します。
「ホワイトな塾」をみつけるポイント(抜粋)
- 分業制が進んでいるか: 営業担当と教務担当が分かれているか。
- 予習・事務給が出るか: 授業以外の業務に対しても賃金が支払われる仕組みがあるか。
- フランチャイズか直営か: 一般的に大手直営の方がコンプライアンス意識が高い傾向にあります。
更に詳しくはこちらの記事をご参照ください。

異業種の優良企業の見つけ方
異業種へ行くなら、「成長産業」を選ぶのがポイントです。
市場が伸びている業界(IT、Web、医療関連など)は、労働者が不足しているため、未経験者を受け入れる余裕があり、入社後の給与の伸びしろも大きいです。
更に長期的に勤めることができ、人生計画を立てるうえで有利に働くことも多いです。
転職エージェントの賢い使い方
教育業界からの転職を成功させるためには、教育業界特化型のエージェントと総合型の大手転職エージェントの併用が鍵となります。
- 教育業界特化型のエージェント
- 教育業界で培ってきたあなたのスキルの真の価値を理解し、適切に評価してくれます。
- 総合型大手エージェント
- 異業種・他職種の求人を圧倒的な数扱っており、選択肢を広げられます。
総合型エージェントだけでは十分に伝わりにくい教育業界の経験を、特化型エージェントのサポートを受けながら「御社で活かせる力」へと翻訳して伝えることが、転職成功への近道となります。
「きつい」を「強み」に変える選択を
「この働き方を、10年後も続けられるだろうか?」 もし今、そう問いかけているのなら、それはあなたが今の環境でやりきった証拠かもしれません。
夜遅くまで生徒の未来を案じ、保護者の不安を受け止め、合格というゴールへ導いてきた日々。その中で培われた「対人調整力」「課題解決力」「伴走力」は、決して教育業界だけでしか通用しないものではありません。むしろ、ビジネスの最前線でこそ、その人間力は希少な武器となります。
「先生」という肩書きを一度下ろし、一人のビジネスパーソンとして自分の価値を見つめ直したとき、そこには想像以上に広いフィールドが待っています。
まずは、あなたのその頑張りを「スキル」という言葉に書き出すことから始めてみてください。
あなたの可能性は、教室の壁の向こう側にこそ、大きく広がっています。
この記事の監修者
教育転職ドットコム 吉田
キャリアアドバイザー
詳しく見る新卒で会計コンサルティングファームに入社し内部統制構築支援や決算早期化支援プロジェクト等に携わった後、リクルートへ転職。教育領域で大学を中心とした高等教育機関の募集戦略の策定やマーケティング支援に携わる。その後学習塾を立ち上げ、創業2か月で単月黒字を達成。学習塾運営のみならず、高校大学受験のための進路指導講演会、高校入試問題の作成等、「教育」分野へ広範にわたって関わり、2022年株式会社コトブックへ参画。