塾講師の転職|セカンドキャリア成功へのロードマップ

この記事の監修者

教育転職ドットコム 吉田
キャリアアドバイザー
詳しく見る新卒で会計コンサルティングファームに入社し内部統制構築支援や決算早期化支援プロジェクト等に携わった後、リクルートへ転職。教育領域で大学を中心とした高等教育機関の募集戦略の策定やマーケティング支援に携わる。その後学習塾を立ち上げ、創業2か月で単月黒字を達成。学習塾運営のみならず、高校大学受験のための進路指導講演会、高校入試問題の作成等、「教育」分野へ広範にわたって関わり、2022年株式会社コトブックへ参画。
はじめに
「生徒の成長が何よりの喜び。でも、このままでいいのだろうか…」そう感じる塾講師の人もいるのではないでしょうか。
生徒一人ひとりと向き合い、その未来を支える塾講師は、間違いなくやりがいのある仕事です。しかしその一方で、不規則な勤務体系や将来への漠然とした不安から、キャリアに悩みを抱えている方も少なくないでしょう。
この記事では悩みの種となる、塾講師のセカンドキャリアについて紹介していきます。
なぜ辞めたい?塾講師が抱えるよくある悩み4選
やりがいを感じる一方で、多くの塾講師がキャリアに悩み、転職を考え始めています。その背景には、業界特有の構造的な4つの課題が存在します。まずは、多くの人が共感するであろう4つの代表的な悩みを見ていきましょう。
- 不規則な勤務と長時間労働
- 給与待遇への将来的不安
- 保護者対応など人間関係の疲れ
- キャリアパスが見えない閉塞感
①不規則な勤務と長時間労働
塾講師の勤務時間は、生徒の学校生活に合わせるため、必然的に不規則になりがちです。平日は午後から深夜まで、土日は講習や模試で一日中という働き方も珍しくありません。
このような勤務形態から「長時間労働」という印象を持たれやすいですが、厚生労働省の統計によると学習塾講師の月の平均勤務時間は166時間です。これは国の定める週40時間労働と大きく乖離するものではなく、数字の上では特別長いわけではありません。
しかし、多くの講師が心身の疲弊を感じるのは、総労働時間には表れない以下のような特徴があるためと考えられます。
- 生活リズムのズレ:
- 夕方から深夜が勤務のコアタイムとなるため、友人や家族とスケジュールを合わせにくい。
- 業務の集中と多岐化 :
- 夏休みや冬休みなどの季節講習期は、業務が集中しやすい。また、授業以外にも、教材準備、テスト作成・採点、保護者への報告、事務作業といった多岐にわたる業務が発生。
このように、塾講師の悩みは単純な労働時間の長さというより、プライベートとの両立が難しい勤務時間帯や、特定の時期に業務が集中する労働環境にあると言えるでしょう。
参考文献:厚生労働省https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/396
②給与・待遇への将来的な不安
教育への情熱だけでは、長期的なキャリアを築くのが難しいと感じる一因が、給与・待遇面にあります。特に、将来のライフプランを考えたときに、不安を覚える方が多くいます。具体的な悩みの原因としては以下のものがあげられます。
- 給与の伸び悩み:
- 昇給のスピードは企業規模などによっても差があり、経験年数だけでは給与が伸びにくい場合もある。
- インセンティブの基準:
- 評価基準が明確でない場合もあり、安定的な収入増にはつながりにくい場合もある。
- 退職金や福利厚生:
- 特に中小規模の塾では、退職金制度や福利厚生が限定的な場合もある。

国税庁の「令和5年分 民間給与実態統計調査」によると、日本の給与所得者の平均給与は460万円でした。一方、厚生労働省の統計では短期雇用者の給与も含まれていますが、学習塾講師の平均年収は438.4万円と、やや低い水準にあります。
年齢階層別にみると、35〜39歳の学習塾講師の平均給与が600万円を超える水準に達する一方で、役職や昇進の機会が限られると、給与の伸びが緩やかになるケースもあります。
将来的なライフイベント(結婚・子育て・老後)を見据えたときには、給与水準やキャリアパスの見通しを持つことが大切であり、将来の不確実性に不安をもつ人もいます。
厚生労働省https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/396
③保護者対応など人間関係の疲れ
塾講師の仕事は、生徒とだけ向き合うものではありません。むしろ、多岐にわたる人間関係が、精神的な負担となることもあります。
- 保護者対応の難しさ:
- 教育方針の違いや、過度な要求、時には理不尽なクレームに疲弊してしまう。
- 生徒との距離感:
- 思春期の生徒とのコミュニケーションや、学習意欲の低い生徒への対応に根気がいる。
- 社内の人間関係:
- 同僚との生徒獲得競争や、上司からの売上(在籍生徒数や講習受講率)に対するプレッシャー。
「人のために」という想いが強い人ほど、これらの人間関係のストレスを一人で抱え込み、心をすり減らしてしまう傾向があります。
④キャリアパスが見えない閉塞感
多くの講師が「一講師」として現場で授業を続ける道を考える中で、以下のような理由から、将来のキャリア形成に悩むケースがあります。
- 限られた昇進の機会:
- 教室長やエリアマネージャーといった管理職ポストは数が限られており、キャリアアップの選択肢が狭いと感じる。
- 汎用スキルの不足:
- 教科指導のスキルは高まっても、他業界で活かせる汎用的なビジネススキルが十分かどうか、不安を抱く。
- 体力的な懸念:
- 夜遅くまでの勤務や立ち仕事が続くため、年齢を重ねたときに続けられるか不安を感じる。
このように、「社内での道は狭く、社外への道も不確かで、今の道を歩き続けることにも限界がある」という状況が将来への閉塞感となり、新しいキャリアを考える大きなきっかけとなるのです。
あなたの強みは?未経験でも通用するポータブルスキル
塾講師の仕事は教育現場に特化したものと思われがちですが、実はビジネスの世界で高く評価される「ポータブルスキル」にあふれています。授業運営や保護者対応で培った指導力やコミュニケーション力は、人材育成や営業職など幅広い分野で強みとして活かせます。転職市場においても、あなたの経験は有力な武器となり得ます。
ポータブルスキルとは
ポータブルスキルとは、特定の業種や職種に依存せず、どんな環境でも活かすことができる汎用性の高い能力のことを指します。塾講師として日々何気なくこなしている業務の中に、このポータブルスキルが隠されています。
①目標達成への強いコミット力
塾講師の仕事は、生徒の「志望校合格」や「成績向上」という明確な目標に対し、逆算して計画を立て、実行し、結果を出すプロセスそのものです。
具体スキル | 具体的に講師がやること |
---|---|
目標設定 | 生徒一人ひとりの学力や志望校に合わせた、具体的で達成可能な目標を設定する。 |
計画立案 | 年間、月間、週間単位で詳細な学習カリキュラムを作成する。 |
進捗管理 | 定期的なテストや面談で生徒の理解度を確認し、計画を柔軟に修正する。 |
結果へのこだわり | 最終的な「合格」という結果に、生徒や保護者と共にコミットする。 |
「目標から逆算し、達成まで粘り強く伴走する力」は、企業の営業職やプロジェクトマネジメントなど、あらゆる仕事で求められる重要なスキルです。
②人を惹きつけるプレゼン能力
学習塾講師は、生徒の集中力を維持し、難しい内容を分かりやすく工夫して伝える経験を重ねています。これは単なる説明にとどまらず、聞き手を引き込むプレゼンテーション能力の向上につながります。
具体スキル | 具体的な内容 |
---|---|
構成力 | 決められた時間内で、結論から話し、具体例を挙げ、要点をまとめる論理的な構成。 |
伝達力 | 専門用語をかみ砕き、相手の理解度に合わせて言葉を選ぶ力。 |
非言語コミュニケーション | 声のトーン、表情、ジェスチャーを使い、聞き手の興味を引きつける技術。 |
この能力は、商談での製品紹介、社内での企画提案、セミナー講師など、ビジネスのあらゆる場面で絶大な効果を発揮します。
③課題発見と解決提案力
学習塾講師の仕事には、生徒や保護者の課題解決を支援する「コンサルティング的な要素」が多く含まれています。
具体的には、
- 相手の話を傾聴し、根本的な問題点(課題)を発見する
- 具体的な学習プラン(解決策)を提案する
といったプロセスを通じて、課題解決に取り組みます。保護者面談でも家庭の悩みや要望をヒアリングし、最適な学習方法を提案する力が求められます。
このような「課題を特定し、解決策を提示するスキル」は、キャリアアドバイザーや教育関連企業の企画職、人材・サービス業のコンサルティング的な業務など、顧客の課題解決を重視する多様な職種で高く評価されます。
塾講師からのキャリアチェンジ成功例

実際に塾講師が培ったスキルは、どのようなキャリアに繋がるのでしょうか。ここでは、代表的な3つの転職成功例をみていきましょう。
1. 25歳・数学塾講師から他の大手予備校講師への転職
転職例
新卒で予備校の数学講師になったAさん(25歳)。中規模の予備校のため出世しにくいことに気づき、今後を見据えて業界最大手クラスの予備校へ転職。
転職時に役立った能力
- 高い教科専門性:
- 担当していた生徒の成績を確実に向上させた実績に裏打ちされた、数学と大学受験問題に対する深い知識。難関大学の入試傾向を分析し、的確な指導ができる能力が評価された。
- 合格実績:
- これまで担当した生徒の「偏差値〇〇アップ」や「〇〇大学合格」といった具体的な成果が、自身の指導力を客観的に証明すると評価された。
成功のポイント
- 指導実績の数値化と具体化:
- 職務経歴書や面接において、「担当生徒の数学の偏差値を半年で平均10向上させた」「〇〇大学の合格者を3名輩出した」など、誰が見ても分かるように実績を具体的な数値で示した。
- 模擬授業の徹底的な準備:
- 採用選考の要である模擬授業で、自身の強みを最大限にアピール。得意な単元を選び、導入から解説、まとめまで、時間を計りながら何度も練習を重ね、生徒役となる面接官に「分かりやすく、面白い」と思わせた。
- 生徒を惹きつける授業力:
- 集団授業でも生徒を飽きさせず、集中力を維持させる構成力や話術が評価された。
- 予備校ごとの特色を研究:
- 転職を希望する予備校の教育理念、使用しているテキスト、合格実績などを徹底的に研究。「貴社の〇〇という指導方針に共感しており、自分の△△という強みを活かせる」と、企業研究に基づいた志望動機を語り、入社意欲の高さを示した。
2. 30歳・教室長から人材紹介会社のキャリアアドバイザーへの転職
転職例
塾講師としてキャリアをスタートし、28歳で教室長に就任したBさん(30歳)。教育分野での経験を活かしつつ、より多様な人のキャリアに関わりたいと考え、人材紹介会社のキャリアアドバイザーに転職。
転職時に役立った能力
- マネジメント能力:
- 複数の講師のシフト管理、指導方針の統一、モチベーション管理などを行ってきた経験が、求職者と企業の双方を管理し、調整するスキルと評価された。
- 営業力・目標達成意欲:
- 生徒数を増やすための目標を設定し、チラシ配りや体験授業の企画・実行などを通じて達成してきた経験が、企業の営業目標に対するコミットメント力として評価された。
- 対人コミュニケーション能力:
- 生徒・保護者との面談を通じて、信頼関係を築き、課題やニーズを引き出す力が、求職者のキャリアの悩みに寄り添い、最適な求人を提案する上で中心的なスキルと評価された。
成功のポイント
- 実績の数値化:
- 「担当教室の生徒数を2年間で20%増加させた」「講師の離職率を前年比で10%改善した」など、職務経歴書や面接で具体的な数値を挙げて、ビジネスパーソンとしての管理・運営能力を客観的に示した。
- キャリアの一貫性の説明:
- 「教育を通じて人の成長を支援すること」を自身のキャリアの軸として設定し、「塾では生徒の学力向上を、これからは社会人のキャリアアップを支援したい」と、転職理由に一貫性を持たせたことで、採用担当者の納得感を得られた。
3. 大手予備校・英語教師から教育系スタートアップの営業職への転職
転職例
大手予備校で英語教師として活躍していたCさん(30代)。既存の教育システムに限界を感じ、テクノロジーの力で教育を根本から変革したいという思いが強まり、EdTech(エドテック)系のスタートアップ企業へ営業職として転職。
転職時に役立った能力
- 課題発見力と提案力:
- 生徒一人ひとりの課題を見抜き、最適な学習プランを提案してきた経験が、顧客である学校や塾が抱える課題をヒアリングし、自社サービスを用いた具体的な解決策を提案するスキルと評価された。
- プレゼンテーション能力:
- 数百人の生徒を惹きつけ、納得させる授業で培った圧倒的な話術と構成力が、商品説明やサービス導入のプレゼンテーションに役立つと評価された。
- 信頼関係構築力:
- 多くの生徒や保護者と面談を重ね、信頼を得てきた経験が、顧客である教育関係者からの信頼と共感を得やすくする経験と評価された。
成功のポイント
- 業界知識と当事者意識のアピール:
- 「予備校講師として、今の教育のここに課題を感じていた。だからこそ、このサービスで解決したい」というように、自身の経験に基づいた強い当事者意識をアピールした。
- 「講師経験」を「営業スキル」に言語化:
- 「授業は多人数へのプレゼンテーション」「生徒のモチベーション管理は、顧客の導入意欲を高めるプロセス」「保護者面談はクロージング交渉」といったように、自身の経験を営業活動の各フェーズに当てはめて説明した。
- スタートアップへの情熱と理解:
- 企業のビジョンやプロダクトを深く理解し、その将来性に強く共感していることを熱意をもって伝えた。
これらの例から分かるように、大切なのは経験を「教育」という枠だけでなく、「課題解決」「人材開発」「目標管理」といったビジネスの言葉で捉え直すことです。あなたが日々磨いている能力は、業界を問わず通用する強力なビジネススキルなのです。
転職活動を始める前に知っておきたい3つのこと
あなたの市場価値に気づき、転職への意欲が高まったとしても、十分な準備をせずに活動を始めると後悔につながる可能性があります。キャリアチェンジを成功させるために、押さえておきたい3つの準備を解説します。
- 転職の「目的」を明確にする
- 「辞めてから次を探す」は危険
- 第三者の客観的な視点を取り入れる
①転職の「目的」を明確にする
最も重要なのが、「なぜ転職するのか?」という目的の明確化です。 「今の職場が嫌だから」というネガティブな理由だけで転職活動を始めると、次の職場でも同じような不満を抱えてしまう可能性があります。
以下の質問に自問自答し、あなたの「転職の軸」を定めましょう。
- Must(絶対に譲れない条件は何か?)
- 例:土日休み、年間休日120日以上、年収〇〇万円以上
- Want(実現したいことは何か?)
- 例:自分のやりたい教育を実現したい、正当な評価制度がある環境で働きたい
- Will(将来的にどうなりたいか?)
- 例:マネジメント経験を積みたい、専門スキルを身につけたい
目的が明確になることで、応募する企業選びの精度が格段に上がり、面接での受け答えにも一貫性が出ます。
②「辞めてから次を探す」は危険
「限界だから先に辞めたい」と感じることもありますが、以下のようなリスクも伴います。
- 経済的な不安:
- 収入が途絶えることで焦りが生まれる
- 心理的な焦り:
- 空白期間への不安から条件を妥協しやすい
- 交渉での不利:
- 給与条件などで不利になる場合がある
体調が優先される場合は例外ですが、可能であれば在職中に活動するか、十分な生活資金を確保したうえで動くことが安心につながります。
③第三者の客観的な視点を取り入れる
一人で転職活動を進めると、自分の強みや可能性を過小評価したり、思い込みで選択肢を狭めてしまうことがあります。親や友達など周囲の人に相談することも選択肢の一つですが、転職エージェントのような専門家に相談することでスムーズで安心な転職活動ができます。
転職エージェントのような専門家に相談するメリット:
- キャリアの棚卸し:
- 強みやスキルを客観的に言語化
- 求人紹介:
- 非公開求人なども含めて紹介
- 選考対策:
- 書類添削や面接練習のサポート
第三者の意見を取り入れることは、新たな可能性に気づき、自信を持って活動することにつながります。
まとめ
塾講師という仕事を通じてあなたが培ってきた経験は、決して無駄にはなりません。むしろ、目標達成へのコミット力、人を惹きつけるプレゼン能力、そして課題解決力は、どの業界でも通用する強力なポータブルスキルです。
たしかに、未経験の職種へ挑戦する場合、企業が教育にかけられる時間や将来性を考慮するため、一般的に30代までの方が選択肢は多くなる傾向にあります。
だからこそ、その貴重な経験を戦略的に活かすことが重要です。年齢に関わらず、理想のセカンドキャリアを実現することは十分に可能です。大切なのは、今の環境への不満から衝動的に動くのではなく、「自分は何を実現したいのか」という目的を明確にし、正しい準備をすることです。
この記事の監修者

教育転職ドットコム 吉田
キャリアアドバイザー
詳しく見る新卒で会計コンサルティングファームに入社し内部統制構築支援や決算早期化支援プロジェクト等に携わった後、リクルートへ転職。教育領域で大学を中心とした高等教育機関の募集戦略の策定やマーケティング支援に携わる。その後学習塾を立ち上げ、創業2か月で単月黒字を達成。学習塾運営のみならず、高校大学受験のための進路指導講演会、高校入試問題の作成等、「教育」分野へ広範にわたって関わり、2022年株式会社コトブックへ参画。